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2010年6月 1日 (火)

汚辱の記憶  『ラスト・サムライ』評


 最後の戦いの場面で、涙がでた。
 そう、いい映画だった。意外にも。
 トム・クルーズと言うハリウッド・スター(この作品のプロデューサーでもある)と、エドワード・ズウィックという監督が作り上げたこの物語は、近年日本人が作り上げたどんな映画よりも“古き良き”日本の精神を衒いなく描いていたのかもしれない、と思わせるほどに。

 ギャトリング・ガン(初期の機関銃)で、サムライたちが虐殺される場面でついに堪えきれなくなった。
 この場面は何か普遍性を持っていたのだと思う。
 クルーズ扮するオールグレン大尉が劇中で何度もインディアン虐殺の悪夢にうなされるところが描写されるが、深く響き合っている。
 ただ、正確に言うなら、ぼくが堪えきれなかったのは、虐殺場面自体ではなく、虐殺する側の帝国軍将校が、自らの虐殺に耐えきれなくなり、明治政府の立役者として実力を持つ大村(原田真人)の命令に背いてギャトリング・ガンでの銃撃を制止させる場面があったからだ。
 皆殺しになったサムライたちの横たわる原野は静寂に包まれる。そして、勝った筈の帝国軍兵士たちは無言のまま、無惨に散ったサムライたちに平伏するのだ。
 ある意味で、ここにまた、正々堂々としたところのない戦いを強いられた無数のオールグレンたちが生まれたことになる。
 たぶん、近代化とは、ここにはまだかろうじて生き延びている感覚の消失を言うのでもあるのだ。

 戦い自体はサムライたちの敗北だったと言う他ない。
 ただ、サムライたちの刀を振るう姿が、鍛錬された美しさを持つのに対して、帝国軍のギャトリング・ガンはいかにも醜い。一面的な言い方になるが、「醜さ」を決して受け入れなかったサムライたちは、それ故に滅びたのだと言える。
 彼らも、その醜さを身に帯びることが出来さえすれば、滅びはしなかっただろう。
 つまり、この映画は実は、近代化という名のある種の醜さを描いているのでもあるのだ。
 帝国軍の兵士たちは、サムライたちの死に様から、自らの醜さを知らされて跪いているのだと思う。

 一方、ラスト・サムライ勝元(渡辺謙)に加担するオールグレンも、かつてその醜さを強制的に引き受けさせられた、加害者としての汚辱の記憶に深く傷ついた人間として登場している。アメリカ大陸の先住民に対してヨーロッパからの移植者たちが行った醜い行いの数々は、アメリカ合衆国と言う国を深く規定している。現在もなお、アメリカ人はこの汚辱の記憶と戦っていると言っても間違いではない。ここ数年のアフガニスタンやイラクへの対処の仕方を見る限り、アメリカ人がこの(自己との)戦いに最終的に破れようとしているのではないか、と憂慮せざるを得ないけれども。

 しかし、アメリカは力のある国である。様々な意味において。
 この『ラスト・サムライ』という映画が、『ダンス・ウィズ・ウルブス』をどこかで思い起こさせるのは偶然ではない。
 バグリー大佐から「何故君は自国人をそんなに嫌う?」と聞かれたオールグレンはついに答え(られ)ない。この答えの根は深いのだ。
 勝元の命が危ないと知るや公然とサムライ側に寝返るオールグレン。彼はつまり、先住民の側に立って騎兵隊と戦おうとするのだ。
そういう物語をきっちりエンターテインメントとして成立させ、なおかつ先住民の、じゃなかった敗戦国の住民の涙を流させるような映画として作ってしまう国、アメリカ。ハリウッド・スター。

 渡辺謙は確かにがんばっていたが、それはお釈迦様の手の平の上の話だ。
 既に、サムライのいない国、日本、は、今またさらに見識のない振る舞いをしようとしている。どこにも楽観すべき状況はない。
           (2004.01.12) 

(2005年11月刊dozeu.net『雑想ブック』より)

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