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2010年5月16日 - 2010年5月22日に作成された記事

2010年5月17日 (月)

井上ひさしさん逝く

難しいことをやさしく/やさしいことを深く/深いことを面白く(井上ひさし)

ぼくは自分のブログに、ずっとこの言葉を掲げて来た。井上ひさし氏が亡くなって、いくつかの番組で、この言葉を取り上げているのを見た。ぼくだけではない。多くの人に届く名言だと思う。

友人に誘われるままに、20代の頃から井上ひさし作の芝居をずいぶんと観て来た。おそらく20本前後くらいは優に観ているのではないか。そして、井上氏の芝居でがっかりして小屋を出て来ることは滅多になかった。
ぼくは芝居に夢中になっていた頃、よく芝居を見ては本気で腹をたてて劇場を出て来たものだ。映画では滅多に本気で腹をたてることはないのだが(単に呆れるだけです)、こと芝居となると猛然と腹がたった。つかこうへい氏の芝居なども二三度そんなことが続き、きっぱり観るのを止めた。
今でも思い出すと腹がたつ。

でも、井上ひさしさんの芝居に限ってはそんなことはない(ひとつだけ例外があったが、あれは演出のせいではないかと疑っている)。観始めるとまず、芝居で描かれる対象(人物であったり事件であったり)に対する井上さんの愛憎の深さがひしひしと伝わって来る。言葉の遊びや奇天烈な物語の展開や主人公の命運に、笑い声を上げ、また悲しみにそっと共感し、やがて、様々な資料を猟歩したあげくに見つけたと思われるその芝居の切り口、取り上げ方にじわじわと感心し始め、エンディングに至ると何事かを教えられ、気づかされて、幕が下りる。

井上さんは、芝居を観ている観客の後ろ姿を、客席の一番後ろからそっと覗くのが好きだった、とどこかで読んだ。その芝居がうまくいったときには、俳優の台詞のひとこと、演技のひとつに、観客席全体がひとりの生き物のように揺れ、波立ち、笑い、さざめく。その一喜一憂する観客の姿をそっと見つめているときほど幸せなことはない。
そう言ったのだそうだ。
実人生ではきっといろいろあっただろうけれど(誰だってそうだ)、芝居の作者としての井上さんは、日本でもっとも幸せな人だったに違いない。

こころよりご冥福をお祈り致します。

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