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2016年8月13日 (土)

沈黙とブランク

庄司薫さんという作家の小説を夢中で読んでいたのは、十代の終わり頃から二十歳代だろうか。

1969年の中央公論に「赤頭巾ちゃん気をつけて」という小説をペンネームで書き(本名は・福田章二)、芥川賞を受賞して一躍時の人になった。小説の主人公の名前も庄司薫で、作者も庄司薫、というわけでこの19歳の主人公が本当に小説を書いたのだろうか? そんなこともささやかれたのだが、不幸なことに(いや、もちろん素晴らしいことだけれど)芥川賞を受賞したために、実はその10年も前に本名で「喪失」という小説を書き、中央公論新人賞を受賞した(当時は二十歳だった)福田章二氏だということがバレてしまう。学生作家の福田章二は本を一冊残して、このときまで沈黙していたのだった。

作家・庄司薫はその後主人公・薫による全四部作を完成させると再び筆を擱く。1970年代末にはほぼ何も書かなくなり、なんと、自作の文庫本化等に後書きを寄せたりする程度で現在まで沈黙を守ってきたのだ。

あれだけ才能のある人がおそらくは数々のオファーがありつつも沈黙を貫いた来た。そこには確固たる意思があったに違いない。

と、ぼくは信じていたのだが、最近、その思い込みを反証する資料を見せて頂き、改めて複雑な思いを抱くことになった。ぼくら庄司ファンにとってみれば、庄司さんの沈黙は大問題であって、何故書かなくなってしまったのか、理由がしりたい、という気持ちは当然あるわけだった。

そして、そこには何人かの人から提出された説らしきものがあるわけだが、その中でも有力だと思うものが、ぼくもその線でその仮説を述べた「1972年の栄養失調」説だ、ということになったりする。この詳細は、リンクを読んで頂けばと思うが、実際にはほぼ書くのを止めてしまった1970年代半ばから末のインタビューで、庄司さんが“薫シリーズ”の続編の構想をもっていたことや、市井に埋れた神様を実験的手法で描く長編の構想(というか、執筆にとりかかっていたらしい)を語っていたことを教えてもらった(庄司薫ファンページに集うみなさん、どうも有難う!)。

となると、改めて心が揺れる。もし、それらの構想が実現していたら、どんな小説世界がぼくらの前に現れていたことだろう、と。

しかし、それは言ってはいけないことなのかもしれない。庄司さんには庄司さんの考えがあり、事情もきっと、あったに違いない。その沈黙を、尊重しなければ、と思う。

ところで、このブログも実は、しばらく沈黙期間があったのだ。
そもそも、以前は「銀河望遠鏡のBOOK-Cafe」と題して、ココログに書いていた。(本日現在はまだ残っている)
でも、2006年から書き始めたブログが2010年頃からペースダウンし、2012年と2013年には一本ずつしか書かず、2014年以降は止まっていたのだ。つまり、我がオンライン古書店「銀河望遠鏡」がサイトの移転等に伴いストップしたのと機を一にする。2013年から、市役所で地域づくりコーディネーターの仕事を始めたことも無関係ではない。

いずれにしても、ブログに文章を書くのを止めて、いわば沈黙したわけだけれど、その実体はと言えば、沈黙なんて格好のよいものではない。単なるブランク。
フェイスブックももちろん悪くはないけれど、少し長めの文章を書くなら、やはりブログというのは未だに良い舞台なのかもしれない。
相変わらず、いろいろ迷い惑う日々なのは情けないけれど、とりあえずブランクを終わらせよう。

ブログを再開します。

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